「義久よ、お前が聞き分けいいのは認めるが」
何も、そこまでやれと言った覚えはないと。
呟く祖父の声は低く、背筋をしんと冷えさせた。
前髪に隠れて見えぬ瞳は、一切の感情を悟らせない。
昼間は襟元に巻かれ、その表情を代弁している狐も
今は褥の傍らで丸まり、こちらにはそっぽを向いている。
「日新様」
起こされた上体に縋るように、その肩を掴んだ。
身に纏った衣から揺蕩う香は、男の用いるものではない。
花にも似たそれをかつて纏ったのは、自分の母だという。
だが、写し身としてなど、見られるつもりはなかった。
まして、ただの戯れと笑って済まされることなど。
「俺が、したいのです」
搾り出した声は、自分でも滑稽なほどに震えている。
昼間にこの装いを強いられ、しかも哄笑まで受けた時は
何故こんな目に遭うのかと、恨めしく思っていたはずなのに。
今は心根までが、女のそれに変わり果てたようだった。
「俺が」
自ずと曝される腿に、染み込む夜気の冷たさまでもが
今は何故か、この上なく甘美なもののように感じられる。
祖父は、何も言わなかった。
ただ無言のまま手を差し伸べ、こちらの唇に指先を載せる。
触れたきり何もしないそれを、咥えたいという衝動に駆られた。
唇を噛み、息を詰めて堪える。
昼間と違い、ここにいるのは祖父と自分の二人だけだ。
しかし、だからこそ、擦り寄る仕草などとても見せられない。
また一笑に付されでもしたらと思うと、堪らなくなる。
顎から喉へと輪郭を辿る手が、やがて襟元に辿り着く。
繻子の結び目にかかった指先が、一息にそれを解く瞬間
祖父が微笑んだように見えたのは、愚かしい期待だろうか。
見世物のように扱われることなど、誇りが許さない。
美しく着飾り、愛らしく在れというのなら、せめて。
ただ一人のためだけに、そうせよと命じられたい。
腰へ廻された手に抱き寄せられる瞬間、褥の傍らを横目で見た。
こちらには目もくれず丸まったままでいる姿に、少し安堵した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
最初につけてたタイトルは「セーラー服と夜這い孫」だったのですが
ベースにした漫画を見て「これセーラー服ちゃう!ブレザーや!」
ということに気づいて、急遽改題しました(そこかよ着眼点は
[1回]
PR