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【2025/12/31 20:06 】 |
【現パラ】その閑話【むねなり?】
11/11、ポッキーの日に間に合わせようと思って書き始めたけど結局無理だった話。
一応、既存の現パラと話が繋がっています(時間軸はこの話の前、この話の後)

ぱき、と乾いた音がした。

「あ――」
呆気に取られたような声と共に、折れた菓子が彼の口元を離れる。
彼が慌てて手を動かすより前に、さっとその下に皿を差し出した。
落ちた菓子は白磁の上で一度だけ跳ねてから、転がり横たわる。

「……ごめん」
「構いませんよ」
行き場を失った手で頭を掻く彼に、微笑みかけた。
「難しい遊びなんだね」
「そうかもしれません」
再び卓上に戻す皿の上には、同じように折れた菓子が積み重なっていた。

始まりは、彼の方から投げかけた質問だった。
――ちょっと、いいかな。
――君を見込んで、訊きたいことがあるんだ。
他ならぬ彼の期待とあらば、応えないわけにいかない。
一も二もなく肯定した自分に、彼が示したのはある菓子の箱だった。
細い焼き菓子に、チョコレートをかけたものだ。
さして珍しいものでもない。子供でも、ごく普通に買える。

だが、本題はそこからだった。
――輝元が言うにはね、若い子達はこれで遊ぶんだって。
――知っているか聞かれたんだが、あいにく私はこの年だからね。
――君なら、わかるかと思って。

頭を抱えたくなった。それを堪えたのは、ひとえに彼の前だからだ。
答えを知らないわけではない。経験はないが、やり方はわかる。
数年前、同じ年頃の知人が騒いでいたのをよく覚えている。
だが自分の知るそれは、遊びというより一種の悪ふざけだ。
彼の孫は一体どこでそれを知り、何故よりによって彼に尋ねた。
言いたいことは色々とあった。だが、とりあえず自分にできたのは、
――何も、気にすることはないと思いますよ。
――あまり、褒められた遊びではありません。
――知らなかったからといって、恥でも何でもない。
そう、言葉を濁すことだけだった。

ところが、意に反して彼は食い下がってきた。
――私だって、これでも菓子職人の端くれだ。
――知らないことがあると思われるのは、どうにもね。
奇妙な拘りだった。彼はあくまで、自ら菓子を作り提供する側だ。
市販の菓子の、それも本来の食べ方とはかけ離れた遊びにまで
精通している必要があるとは思えなかった。
だが話を聞くに、彼にとっての問題はどうもそこではないらしい。
現役を引退し、長年の夢であったこの店を始めるにあたって
彼を頼みとしてきた息子や孫は、大いに反対したのだという。
その猛反対を押し切って、自分の夢を追い求めてしまった手前
知らないことがあって戸惑う姿など、見せられないというのだ。

結局、根負けした振りをして、答えを教えることにした。
彼がそこまで拘泥する理由こそ、奇妙なものだとは思うが
自らの仕事に熱意を注ぐ、貴重な姿を見ることができた。
しかも、そのために自分を頼ってくれたというのも喜ばしい。
何より、自分にとってはまたとない機会だ。
彼との距離を、文字通りの意味で詰めるための。

幸い、件の菓子はこの場にある。
実践しようと誘えば、真相を知らぬ彼は二つ返事で快諾した。
ところが、難関は思いもよらぬところに転がっていた。

――まず、この端を口に咥えて。
封を切った菓子を一本差し出せば、彼は大人しく従った。
問題は、そこからだ。

――そのまま、手を使わずに食べるんです。
教えると彼は、器用にも菓子を咥えたまま目を丸くした。
そして次の瞬間、乾いた音がひとつ聞こえたかと思えば
菓子は呆気なく、彼の口元から零れ落ちていた。
離したのではない。どういう力加減でか、折ってしまったのだ。

気を取り直し、何度か繰り返してみたが、結果は同じだった。
細長い菓子を唇で少しずつ咥え、手を使わずに食べる動作が
彼にとっては何故か、この上ない難問であるらしい。
こちらから教えようにも、自分には当然のようにできる動作だ。
どこがわからないのか、何を教えるべきか、全く見当がつかない。

結局、答えを教えるどころか、その遥か前で行き詰まったまま。
「もういいよ、宗茂君」
「宗茂でいいです」
言い直すと、彼は一瞬だけ言葉を失ったようにこちらを見た。
その隙を突いて、ぐいと顔を近づけ、瞳を覗き込む。

「もう、諦めるんですか」
「これ以上、君を付き合わせるのも悪いしね」
「別に俺は、悪いなんて一言も言っていませんよ」
「でも、続けたところで、できるとは思えないし――」
やり方そのものはわかったから、もう十分だよ。
半ば呟くように、そう言い訳する口元に。
「――元就さん」
紙箱から取り出した新たな菓子を、もう一本突きつける。
さながら、細剣の切先のように。

「さあ、もう一度」
促せば彼は苦笑し、気圧されたように上体を逸らした。
「……どうして、そんなに気合が入っているんだい」
「元はといえば、あなたの頼みですから」
にこりと笑って答える言葉は半分真実で、半分偽りだ。
孫に対する彼の面子を守るだけなら、問いの答えは口で伝えればいい。
それをあえてしなかったのは、こちらも彼に近づきたかったからだ。
ほんの少しでいい。友人と呼べる距離から、より深くに踏み込みたい。
その時、彼がどんな顔をするか。この目で、間近で、見てみたい。

「咥えて」
唇に先端を触れさせると、彼は半ば諦めたように菓子を口にした。
「そのまま。余計な力を入れないで」
指示に緊張したのか、きゅ、と引き締められる口元。
「俺が、手本をお見せしますよ」
それを視界に捉えながら、反対側の端を咥える。

歯を立てて少しだけ小さく齧ると、彼が目を見開いた。
息を呑んだ喉が、引きつる気配。だが、菓子は折れない。
言いつけ通り、力加減を守っているのだろう。
時々微かに震える唇を注視しながら、少しずつ食べ進む。
近づく、二人の距離。

時折、視線が交わる。
下がった眉が、瞬く瞳が、これでいいのかと訴えてくる。
言葉はない。当然だ、口が塞がっているのだから。
「離したら、負けですからね」
食べるのを中断してそう告げると、彼はびくりと身を震わせた。
「もちろん、折っても負けです」
膝の上に置かれていた左手が、緊張のためかきつく握り締められる。
両の掌でそれを包み込みながら、残り半分もない菓子を再び齧る。
さて、どこまで距離を詰めるか――そう思い始めた矢先。

無造作に垂れていた彼の右手が、こちらの胸元を強く掴んだ。
不意に均衡を崩され、半ば倒れ込むように引き寄せられる。

ぱき、と乾いた音。
そして、重なる――というよりは、ぶつかる二人の唇。

二人とも、しばらく目を見開いたまま動けなかった。
やがて彼の方が、思い出したかのように声を上げる。
「ご、ごめん……!」
縋っていた手が、今度は意外なほどの力で突き放してくる。
「大丈夫ですよ」
緊張したんでしょう――とは言ってみたが、聞こえていないらしい。
「本当に……こんな、つもりじゃ」
まるで自らに全ての落ち度があるかのように、彼はひどく取り乱した。
さて、どうしたものか。
乾いた唇の感触を思い起こしながら、考える。

距離を縮められたらと思っていたのは事実だが、これは計算外だった。
本当に唇を重ねるなら、互いにもう少し心の準備をした上で
時間をかけて味わいたかったというのが、正直なところだ。
とはいえ、起こってしまったことを今さら変えられるはずもない。
何より、彼に意味もなく罪の意識を持たせるのは避けたかった。

ならば、方法は一つだ。
「元就さん」
そろそろ彼にも、こちらの真意を知ってもらおう。

「俺は別に、怒ってなんかいませんよ」
そう切り出して肩を叩くと、彼はようやく気づいたように顔を上げた。
「だから、悪いことをしたなんて、思わないでください」
「でも……」
呟く唇が歪み、複雑な表情を形作る。
君はまだ若いのに。男同士で、なんて。まして私は――
声にならずとも、そんな言葉が伝わってくるような面差しだった。
しおらしいその姿を、抱き締めたくて堪らなくなる。

「いいんですよ」
改めて、肩が触れ合うほどの近さに座り直す。
「むしろ、俺としては嬉しいくらいだ」
そう言うと彼は、戸惑ったようにこちらを見た。
「……嬉しい?」
何気なくその言葉を繰り返す、無防備な唇に。
今度は明確な意思を持って、自らのそれを重ねる。

ただ触れるだけの、軽い口付け。
抵抗を抑えるようなことは、あえてしなかった。
ここで突き放されてしまうなら、それまでのことだ。

言うなれば、一つの賭け。
男が男に惹かれるなど、ただごとではない。
彼くらいの年代ともなれば、なおさらそう思うだろう。
これまで築いてきた友情や信頼を、失う可能性もある。
だが不思議と、そうはならないような気がしたのだ。

はたして、唇を離すまでの間、彼はついに動かなかった。
拒絶も、受容も、行動には一切表さないまま。
ただ、離れた途端に俯いた顔が、少しずつ染まってゆく。
最初は、微かに。しかしやがては、隠し切れないほどに。
「……ど、どうして」
振り絞るような声は、誰に向けてのものだったのだろう。
彼からすれば何の前触れもなく、こんな行動に出た男にか。
あるいは男相手に唇を許し、抵抗一つしなかった自らにか。

どちらであっても、大した問題ではない。
重要なのは、これが好機ということだ。
この時を、どれほど待ったことか。

「お嫌なら、これ以上はしません」
俯いた顔を覗き込み、呼びかける。
「ですが、もしあなたが、俺を嫌いでないのなら」
あと少しだけ、動かないでいてくれますか。
仮定の形で問う間も、視線は外さない。
彼自身にも捉え切れていないかもしれない、その真意を測るため。

それは、自分が彼に対して抱くほど、強い感情ではないかもしれない。
だが、一欠片でもいい。ただの友情よりも強い何かが、彼の心にあれば。
より深くに踏み込むための、それは立派な足がかりとなる。

穏和な手がまるで取り繕うように、膝の上に落ちた菓子の欠片を払う。
やがてそれらを全て取り除くと、彼は俯いたまま一つだけ頷いた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
それにしてもこの王子、ノリノリである。
しかし、これが未来の幸福の前払いであることは言うまでもない(世界○見え風に)

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【2010/11/13 17:16 】 | 戦ムソ | 有り難いご意見(0)
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