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【2025/12/31 20:06 】 |
【現パラ】その転機【むねなり→なりむね】
胡乱な設定のまま続いている現パラ。この話の直後で、これに繋がります。
今までの話より長い。あと、お子様と心臓の弱い方は注意してお読みください。

隣同士の椅子。
彼の膝に片手をつき、乗り出した上体を支えながら口付ける。
まだ、深くはしない。軽く触れ合うだけで、今は十分だ。
少し角度を変えるだけで、寄り添った肩は面白いように強張る。
浅く食んで唾液で濡らせば、堪えた喘ぎさえ伝わるようだった。

存分に味わってから唇を離すと、彼はまず大きく息をついた。
睫毛を薄く濡らす涙は、官能ゆえのものではないだろう。
必死に息を継ぐ姿は、陸に打ち上げられた魚を思わせた。
「まさか、初めてではないでしょう?」
「……ずっと、昔の話だよ」
無粋な問いかけにも怒るどころか、弱々しく首を振るだけだ。
それに、と。
乱れた呼吸を整えようとしながら、切れ切れに付け加える。
「……こんなにドキドキするのなんて、これが」
「初めて、ですか?」
頷いたきり顔を伏せた、彼は未だ耳まで染めたままだ。
意図せざるその反応が、なおさらに心を掻き立てる。
「悪くは、ないんじゃないですか」
「……苦しいよ」
胸が、痛くて。
消え入りそうなその声に、思わず笑みが零れた。
彼はその途端、弾かれたように顔を上げてこちらを見据えた。
今にも泣き出しそうな表情だと言ったら、どんな反応をするだろう。

「何が、可笑しいんだい」
不安げに掠れた声。
私を困らせてそんなに楽しいのか、揺れる眼差しがそう訴える。
「そういうわけでは、ありませんよ」
廻した片手で、宥めるように彼の背を撫でた。
「ただ、嬉しいだけです」
知り合ってから、初めて触れることができた彼の心。
胸を締めつける、痛みの正体。
「それは――あなたも、俺を好きということでしょう?」
彼は答えない。
何かを堪えるように噛み締めた唇を、震わせるだけだ。
それは拒絶か。あるいは、無言の肯定か。
確かめたいと思うのは、惹かれている身なら当然だろう。
「元就さん」
顔を覗き込み、問いかければ。
「もう一度――キスしても、いいですか?」
見開かれた瞳はやがて、意を決したようにきつく閉じる。
それを見届けてから、言った通りもう一度口付けた。
ただし今度は、震えながらも大人しく差し出された唇にではなく。
その横をすり抜けて頬へ、耳元へ。そして、さらに下へ。

首筋に触れると、薄い皮膚が微かに震えた。
少し位置を変えて、もう一度。
今度は反らされた喉の奥で、押し殺した声が上がる。
「ここ、弱いんですか」
問いかけると、彼はむずかる子供のように首を振った。
「本当に?」
念を押すと、無言のままで大きく頷いてみせる。
血色を失うほど噛み締められた唇が、何よりの答えだというのに。
「じゃあ」
もっとしても、平気ですね。
曇りのない笑顔で畳みかければ、怯えるように息を呑む音。
だが、逃がさない。
強張る肩を片手で抱き寄せ、捕まえてからもう一度。

抵抗を感じたのは、ほんのわずかな間だけだった。
首筋に顔を埋め唇を寄せれば、彼の身体は瞬く間に力を失う。
息を弾ませ、潤んだ瞳で、許しを乞うような眼差しを向けながら。
決定的な拒絶の素振りも示すことなく、されるがままになっている。
普段の穏やかで思慮深げな姿など、もはや見る影もなかった。
その様子に、抱いていた確信と歓喜はさらに深くなる。
蘇ろうとしているのだ。彼の中で長らく眠っていた熱が、再び。

見つめれば、染まったままの顔はふいと背けられる。
「逸らさないで」
そこに、追い縋る。
「もっと、見せてください」
耳の傍で囁きながら、胸元のタイを少しだけ解く。
「俺の知らない、あなたを」
緩められた襟元に、子犬のように鼻先を埋めて。
露になった鎖骨の上を、強く吸って痕を残す。

啜り泣くような声を上げながらも、結局彼はそれら全てを受け入れた。
それでも、さらに服を緩めようとした時には、少しだけ抵抗があった。
弱々しくこちらの肩を押す手が、シャツの上で小さく握られる。
「お嫌ですか?」
問いかけても、彼は直接的な答えを返さない。
ただ、観念したかのように、ゆるゆると首を振って。
「……戸締りを、したいんだ」
いいかな、と。
乱れた息の中、遠慮がちに尋ねる声が愛おしい。
はたして、彼は気づいているのだろうか。
余人を立ち入らせたくない、誰にも見られたくない――
その思いこそが既に、これからすることへの肯定であることに。

廻していた手を、離す。
解放しても彼は逃げないと確信できたし、実際その通りになった。
魂が抜けたような顔で立ち上がる、彼の足元はひどく覚束ない。
「手伝いましょうか」
「いや、いいよ……!」
笑いながら問いかけると、彼はいっそ哀れなほどに狼狽えた。
抱き締め、包み込んで守りたい。追い詰め、余裕を奪って泣かせたい。
相反する二つの情を掻き立てる表情が、切れ切れに訴える。
「だ、大丈夫……だから」
これでも食べて、待っていて。
そう言ったきり彼は口を噤み、代わりに卓上の紙箱をぐいと押しつけた。

酔ったような足取りで入り口の扉へと向かう、彼の背を見送る。
閉店の札をかけ、カーテンを引いて隙間なく閉じる仕草は
自分との時間を大切にしてくれているようで、嬉しくなった。
チェーン錠でもかけているのか、時折重い金属音が聞こえる。
やや焦った様子で俯き、手元を忙しなく動かす様子も
普段の落ち着いた彼とは違っていて、可愛らしくすら思えた。
この分では、戸締りにもしばらく時間がかかるだろう。
彼の好意に甘え、卓上の菓子を齧りながら待つことにした。

一口ずつを味わっている間に、ふと。

南京錠か何かだろう、かちりと硬い音が響いてきた。
そろそろ終わるだろうか。箱を卓上に戻し、彼を待つ。
ところが、もう一つ同じ音が聞こえてきた。
かちり、と。
不思議に思ったところで、さらにもう一つ。

おかしい。
いくら何でも、錠をかける音にしては多くないか。
そもそも、ただの戸締りに時間をかけすぎてはいないか。
こんなにも手間取って、彼は一体何をしている。

足音を立てぬよう、席を立った。
気配を殺し、扉と向き合ったままの背にそっと歩み寄る。
その間にも、硬い音はもう一つ聞こえていた。

極限まで近づき、彼の肩越しに覗き込む。
そこに、見えたものは。

「ああ、ごめん」
何でもないように振り向き、はにかんでみせる彼と、
「随分、待たせてしまったね」
ドアの取っ手を完全に覆い隠すほど、幾重にも巻かれた鉄の鎖。
「これで、最後だから」
そして、彼の手の中でかちりと鳴る、五つ目の南京錠。

抱き竦めようと伸ばしていた手を、反射的に引いた。
彼の姿など一顧だにせず、踵を返して走り出す。

全力で駆ける身体から、冷たい汗がどっと吹き出す。
外からの来客を避けるなら、簡素な施錠で十分のはずだ。
閉店の札がある以上、扉が開かなければそれを疑う者はない。
ならば、彼の言う『戸締り』は。
あれほど時間をかけ、執拗に厳重に扉を縛る鎖と錠は。
店の外から訪れる人間を、阻むためのものではなく。
――中にいる人間を、ここに閉じ込めるための。

足は自ずと、店の奥へと向かっていた。
外に通じる扉は、たった今、彼の手で閉ざされた。
だが、ホテルの内部に通じる通路は、別に存在するはずだ。
おそらくは厨房の奥、従業員のみが出入りする区域に。
無論、部外者がみだりに立ち入るべきではないだろう。
だが今は、良識よりも切迫した恐怖の方が勝っていた。

厨房に踏み込む。
洗われた食器が、水を切られて整然と並ぶ流し台。
彼がいつものように用意していたであろう、ケーキの皿。
それら全てに目もくれず、真っ直ぐに目指した最奥。

出口は、あった。
関係者以外の立入禁止を掲げた、何の変哲も無い扉だ。
ノブに手をかけ、捻る。しかし、開かない。
何度も押し、引いても同じだ。施錠されているのか。
ならばと、体当たりを試みたその時。

「そのドア、無理に開けない方がいいよ」
聞き慣れた声の警告は、思ったより近くから聞こえた。
「セキュリティシステムが作動して、警報が鳴るんだ」
振り向く間にも、一歩ずつ近づいてくる靴音。
「多分、困るのは君の方だよ」
説明する彼は、もう縋るような瞳などしていない。
「これ――人が見たら、どう思うだろうね」
自らの襟を開いて彼が示すのは、こちらが肌の上に残した痕だ。
一時は受け入れられた証として、心地良い紅にも見えたそれが
今は奇妙な生々しさを伴い、目を刺すような鮮烈さで映る。

「俺が不法侵入して、あなたに望まぬ行為を強いた――と?」
沈黙はおそらく、肯定だろう。自分でも、想像はつく。
営業時間の過ぎたカフェの、それも従業員用の通路。
本来なら、部外者がいること自体がありえない場所だ。
そこに自分は、非正規の手段で入り込んでしまっている。
しかも彼が示した通り、不利な証拠まではっきりと残して。
警報が鳴り、人が来た時、信用されるのは彼と自分のどちらだ。
――考えるまでもない。

「全て、あなたの手の内……というわけですか」
呟けば、彼と出会ってからの記憶が鮮やかに蘇る。
一個人として関わりたいというこちらの意思を、
問いかけることで表に出させたのは彼の方だ。
訪れても構わないと、閉店後の店に誘ったのも彼からだ。
孫から聞いたと嘯き、性質の悪い遊びの教えを乞うたのも。
そして、その先に進む契機、予想外の事故と思えた出来事も。
二人の関係を決めてきたのは――全て、彼が起こした行動だった。

彼に関わったのは、ひとえに自らの意思だと信じてきた。
だが、そうではなかった。
自分はただ、彼が自ら開けた扉に誘い込まれていただけだ。
満たされていたはずの胸に、じわじわと苦いものが込み上げてくる。

「……何故、です」
受け入れられたと思ったのは、こちらの一方的な思い違いか。
馴れ馴れしい客を拒まず、閉店後の店に自ら招き入れたのも。
抱き締められ、口付けられてなお、振り解かずにいたのも。
この窮地に、自分を追い詰めるための策だったのか。
だが、何のためだ。
ここに至るまで、彼の方も相当の手間を割いているはずだ。
そうまでして、何故、自分を。

「俺が、立花の養子だからですか」
浅からぬ関わりがあったという、養父との因縁。
自分にとっては重要ではないが、彼にとっても同じとは限らない。
しかし、
「違うよ」
彼はいとも容易く、その予想を否定してみせた。

「なら、どうして」
「理由なら、さっき君が言ったじゃないか」
唐突に出された言葉に、戸惑う。
何の話だ。そんなことを、いつ言った――
思考を巡らせる自分を前に、彼は一瞬だけ目を伏せた。
そして再び、顔を上げると。
「好きなんだよ。君のことが」
消え入りそうな声で、思いがけない言葉を口にする。

逃げ場を失い張り詰めていた心に、一条の罅が走った。
予想だにしなかった言葉だった。
興味を持っているのは、自分だけだと思っていたのだ。
歩み寄ろうとしてきたことが、ようやく報われたと思う反面。
彼が何故こんなことをするのか、ますます掴めなくなる。
歓喜、困惑、充足、疑念、様々な感情が一度に溢れ出して
求めていたはずの言葉に、何を返せばいいのかがわからない。

答えに窮する自分に、彼は肩を竦めてみせた。
「これでも、私なりに色々と思い悩んでいたんだけどね」
まさかこの年になって、恋に落ちるなんて思ってもみなかった――
そう言って苦く笑う彼の目に映る自分は、一体何者だろう。
物好きな常連客か。孫よりも若い男か。因縁浅からぬ相手の後継者か。
いずれにせよ、気軽に恋愛を楽しめる相手ではなかったに違いない。
「何度も、諦めようとしたよ。こんな気持ちになるのは、おかしいって」
でも、駄目だった。
自嘲するように呟く彼の心も、その立場を思えば想像に難くない。

だが、そうだとしたら、自分の見てきた彼は何だったのか。
教えた名前を初めて呼んだ時の、秘密めいた声音。
閉店後の店に誘った時の、甘い微笑み。
何より、初めて唇を重ねた時の、初心ともいえる反応。
自らの恋情を頑なに拒み、否定したという回想と
こちらの記憶にある彼の姿は、全く重ならない。
扉を堅く閉ざし、こちらを追い詰めた行動も、また。
一体どれが、真実の彼だ。彼の本当の気持ちは、どこにある。

独白は続く。
「だから私は、君の行動に判断を委ねた」
自力で断ち切れない思いなら、他人の手を借りるしかない。
「私から近づいて、もし君が乗ってこなければ、終わりにしようって」
彼の真意に、気づかなければ。あるいは気づいて、拒んでいたなら。
二人はただ、年の離れた親しい友人として付き合えたのだろう。
「なのに、君は――」
そこから先は、言われるまでもない。
誘い込まれていることには、ついに今まで気づかないまま。
彼の深みを知りたいという一心で、自らそこに踏み込んだ。
開けられまいとして用意された扉を、何枚も何枚も開いて。
好きだと先に打ち明けることで、ついには彼を追い詰めた。
理性で抑えてきた想いを、自制できなくなるこの局面まで。

どうして。
初めて唇を重ねた時、彼は確かにそう呟いていた。
あの問いかけは、こちらに向けられたものだったのだ。
灰と燃え尽きる運命にあった恋情を、何故呼び覚ましたのかと。

やっと、理解できた。
どれが真実などと、いうものではないのだ。
「ごめん」
二人きりで過ごしていた時の、はにかんだ表情も。
「もう――君を、帰せない」
自分を追い詰めながら見せる、切羽詰った表情も。
全て、真実だ。
自分が知りたいと願ってきた、嘘偽りのない彼の姿。

「嫌なら、これを最後にしてくれればいい」
彼の歩が、ゆっくりと進められる。
「何ならこの後、私を好きにしてくれてもいい」
君になら、何をされても構わないから。
「私に残された時間は少ないけれど、全部、君にあげるよ」
震える声で、しかし躊躇なく重い言葉を口にしながら。
真っ直ぐな眼差しは、それが決して誇張ではないと訴えている。
彼はこの恋に、文字通り全てを捧げる気でいるのだ。
あるいは生涯で最後となるかもしれない、この恋に。

「だから、今だけは」
密着と言ってもいいほどの近さにまで、踏み込まれる。
後退る場所など、扉を背にした自分にはもう残されていなかった。
「私から、逃げないで――」
少し背伸びした彼の顔が、間近に迫る。

「宗茂」

待ち望んだ、その声。
初めて敬称をつけずに呼ぶ声は、とても甘く、切実で。
そっと重ねられる唇を突き放すことなど、もう考えられなかった。
知りたかった、彼の深み。
自分のことを好きだと、恋をしているとまで言ってくれた。
長い時間をかけて、やっと手に入れることができた本当の心。
何故今さら、受け止めることに躊躇いなど感じるだろう。
庇護欲にも似た強烈な恋情の前に、一切の理屈は意味を失った。
どう考えても、身の危険が迫っているのは自分の方であったのに。

――嫌なら、これを最後に。
言われた通りにそうすることなど、微塵も考えなかった。
一度踏み込んだが最後、二度と戻れなくなる道もある。
否も応も綯い交ぜにさせられ、拒むことすらできなくなる。
そんな未来など、この時の自分は予想だにしなかったのだ。

冷たく重い鎖の感触が、両の手首に食い込む瞬間さえ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
このシーンを書くために この現パラを書いたといっても 過言ではない……!

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